カフェインオーバーフロー

プログラミングに携わる中で、どなたかの役に立つかもしれないと思ったことを共有していきます。

あのプレゼンの何が最高だったのか

f:id:monoue:20210827123806p:plain 昨晩、ペパボさん主催のオンラインイベントに参加させて頂きました。
色々な発表の中、1つのプレゼンに心を打たれました。
なぜそう感じたかを言葉に残すことで、自分が今後プレゼンの機会に与った際に参考にできるようにしたいと考え、記事としてまとめさせて頂きました。
何らかの形で読者様のお役にも立てたなら幸いです。

なお、こう聞かされると、読者様が気になるのは、僕の考察よりも、プレゼンの内容かと思います。
しかし、そちらに触れると、今回の本題から逸れてしまうので、すみませんが割愛させて頂きます。
こちらのスライドや記事の内容からお察しくださいませ…🙇🏻‍♂️

speakerdeck.com

はじめにお断りさせて頂きますと、逆説的な項目名が多めになっており、それが不快に感じられる方もいらっしゃるかもしれません。
ですが、批判や嫌みが目的では当然ございません。
「伝わるプレゼンには、いわゆる『良い』プレゼンのイメージに反している点が多いのでは」という気付きを反映させてのことです。
また、今回取り上げているプレゼンを「上げる」ことで、相対的に他のプレゼンを貶めようというような意図もございません。

伝えたいことがある

やっぱり、これに勝るものはないのですね…!
この項目以外についても色々と述べますが、本項を抜きにしては成り立たず、これがほぼ全てかと思います。
プレゼンの機会が与えられた際、良さそうな内容を寄せ集めることで尺を埋めようとするのと、「これが有益だと思うから伝えたい」というものがしっかりあるのとでは、まるっきり違うと思い知らされました。

スライドだけ見てもよく分からない

あまりに良いプレゼンだったので、その感動をもう一度味わいたく、公開されたスライドを見直しました。
しかしながら、スライドだけ見ても、あまり魅力的に感じませんでした(もちろん、人によって異なるでしょうし、プレゼンをご覧になっていない方では尚更かと思います)。
これは、トークとスライドとの役割分担がしっかりなされていることの表れかと思います。
スライドだけでほとんどが伝わるならば、あえてプレゼンにする必要はなく、記事にすれば十分なはずです。
スライドの主な役割は、視覚にてイメージを補助することであり、それに準ずる役割が、聞き手が論点を保持しやすいように、トピックを文字として載せることかと思います。
聞き手にとっては、スライド上の文字の「リーディング」とトークの内容の「リスニング」を同時に消化するのは難しい芸当であり、相乗効果を生むどころか、注意散漫状態を招きがちかと思います。

スライドの作り込み具合が甘い

色々なプレゼンを見ていると、「美しい…! この1枚のスライドを作るのに、どれだけ掛かったのだろう…」と感じる機会がしばしばあります。
特に、エンジニア界隈では、技術力というのは常に付き纏う要素ですので、スライドを目にする際、HTML / CSS 的な指標を適用しがちかもしれません。
しかし、今回のプレゼンのスライドは、あえて粗野な言葉を使わせて頂きますと「こんなん誰でも作れるわ」という印象です。
思うに、プレゼンの本質的な良さは、作品としてのクオリティやパフォーマンス面とは別のところにあるのではないでしょうか。
「凄いプレゼンだったな! 惹き付けるようなトークで、スライドもクオリティ高かったし…」という印象が、実は、その裏にある「あのプレゼンを見て、自分の中で変わった点は…特にないかもな…」という印象をかき消しているということも、それなりにあるのではないでしょうか。
もしくは、視覚的なクオリティの高さへの感心が先行してしまい、それがかえって内容への集中を妨げてしまうという本末転倒に至る可能性も、十分にあり得ると思います。

話し手の活躍ぶりがよく分からない

プレゼンは、目立ちます。
多くの人にとって、「ここぞ!」と気合いを入れて臨む場面です。
自分の評判が上がってほしいという思いは、ないと不自然なくらいだと思いますし、そのような報酬によるモチベーションなくしては、プレゼンという大事業をやり遂げることが難しい場合もあるかと思います。
今回のプレゼンは、いわゆる「映える」ようなものではありませんでした。
華々しい要素はなく、話し手自身についての情報もあまりなかったため、「大活躍なさっている凄い方なんだ」というような印象は、聞き手には残らなかったと思います。
しかし、その分、メッセージが残りました。

聞き手を操るのが上手ではない

「〇〇だよね!」と伝えることの言外には、「だから、△△しなきゃ変だよね!」という誘導の意図や、「そうして貰うことによって、XX な結果になってほしいな…」という意図がある場合もあります。
大袈裟に言えば、人心を操作しようという企みです。
もし、聞き手の利益を願っているように思わせておいて、実はそれが、話し手の利益を達成するための手段だということが見え透いてしまった場合、見くびられた感覚や不信感が残るかと思います。
今回のプレゼンは、そのようないやらしさとは無縁のものでした。
それどころか、「みんな入ろう FBC!」というストレートすぎる宣伝スライドが二回も登場する様は、清々しいくらいでした。 f:id:monoue:20210827113146p:plain

言葉に知的さを感じない

言い換えると、「使用されている語彙のレベルが低い」とも言えるかと思います(断っておきますと、言葉遣いそのものはご丁寧でした)。

プレゼンを自己アピールの機会と捉えるならば、知性を演出するために、難しい熟語や横文字を使いたくなりがちかと思います。
ですが、より難しい言葉を使うにつれて、理解を妨げる可能性も高まることは、聞き手が子どもであると仮定すればすぐに分かるかと思います。
思うに、難しい語彙の使用が読み手のより深い理解につながるのは、大抵は書き言葉の場合であって、スピーチにはそのまま当て嵌まらないことが多いのではないでしょうか?
スピーチにおいて「伝わる」ということを優先するならば、できるだけ簡単な言葉を探した方が良さそうに感じます。
本当は難しい内容を、子どもでも聞き続けられるような雑談レベルまで噛み砕けたなら、それが理想形だと考えます。

しつこい

プレゼンの導入部分のスライドを、終盤でリマインダーとして再登場させるという手法は、よくあるかと思います。
しかし、今回のプレゼンでは、こちらの「ピクルス原理」のシートが、事あるごとに顔を出します。
f:id:monoue:20210827112939p:plain 短いインターバルで3度目に登場した際は、テレビを観ている時の「またこの CM かい!」というような感覚で、笑ってしまいました🤣
今回の構成を単純化し、「りんごの魅力を伝えるプレゼン」に喩えると、以下のような感じかと思います。

りんごは魅力的なんだよっ!

赤くて美しいでしょ。

だからりんごは魅力的なんだよ!

それに、みずみずしいでしょ。

ほら、りんごは魅力的なんだよ!

しかも、甘いよね。

この通り、りんごは魅力的なんだよ!

これほど主題を繰り返せるのは、一つ一つの主張が主題からブレていない証拠です。
印象に強く残ったため、「こんなに繰り返しても良いんだ…!」という学びになりました。

「伝わる」プレゼンと「イケてる」プレゼン

最後に記しておきたいのは、これまで列挙してきた項目はあくまでも、僕個人が、「伝わる」プレゼンの要素だと感じたものであって、常に正しいようなものではないということです。
途中でも記しましたように、プレゼンというのは見せ場であり、自己アピールに最適の場所です。
人生には「キメにいくべき場面」も存在するように思い、そういう場では、イケてるプレゼンで勝負に行くことが、聞き手からも期待されているかと思います(むしろ、そういう場面の方が多いのかもしれません…?)。
そうではなく、「このすばらしい内容をぜひ知ってほしい…!」という想いからプレゼンを行う場合、その時点でかなり良いプレゼンになることが保証されているようなものかと思います。
そうした際には、「伝わるプレゼン」と「イケてるプレゼン」を混同して考えないよう注意が必要であろうという点について、自戒を込めて記事にさせて頂きました。

UNIX という考え方: その設計思想と哲学

本書を知ったきっかけ

プログラミング仲間が Twitter で紹介してくれていました。

内容を一言にまとめると

著者の主張を一言に要約すると「プログラムにおいて、シンプルさは正義」といった印象です。

概要

著者のマイク・ガンカーズは、X Windows System 開発チームの一員であり、UNIX で得た経験を「UNIX 哲学」として以下のように集約しました。

UNIX 哲学:9つの命題
  1. 小さいものは美しい
  2. 各プログラムが一つのことをうまくやるようにせよ
  3. できる限り早くプロトタイプを作れ
  4. 効率よりも移植しやすさ
  5. データはテキストファイルに格納せよ
  6. ソフトウェアを梃子(てこ)として利用せよ
  7. 効率と移植性を高めるためにシェルスクリプトを利用せよ
  8. 拘束的なユーザーインターフェースは作るな
  9. 全てのプログラムはフィルタとして振る舞うようにせよ

本書は主に、これらの命題を深掘りすることで、「UNIX という考え方」の全体像を浮き彫りにしようという試みです。

読んで得られたもの

大きくは、以下の2点です。

  1. 自分のコードがきれいになった
  2. UNIX に親近感を覚えられるようになった

1. 自分のコードがきれいになった

こちらが最大のメリットでした🤩

これは、意外なメリットでもありました。

本書にはそもそも、コードがほぼ全く登場しません。

著者は単に、UNIX 哲学の思想について、そのような思想に至った理由や背景を述べていくのみです。

しかし、その語り口には説得力があり、頷きながら読み進めるうちに、「次にコードを書く時はこうありたい」という思いが高まっていきました。

結果として、読了後に書いたコードは、各機能がよく切り離されており、機能の追加や使い回しが容易なものにでき、満足度が高かったです😄

2. UNIX に親近感を覚えられるようになった

以前、友人に「UNIXLinux の違いって何?」と質問されたものの、即座に答えられず、ググった結果を横流しすることになった経験があります😅

両者は似ているものの、どちらかと言うと、Linux の方が身近であり、UNIX という概念に直接触れる機会は少ないのではないでしょうか。

僕は本書を読むことで、自分の中に、UNIX を貫く思想のバックボーンについてのイメージができあがりました。

それにつられて、UNIXLinux の違いについても、捉え方において異なった位置にマッピングされた感覚があります。

まとめ

2つ目のメリットとして挙げた「UNIX に親近感を覚えられるようになった」については、本書を読まれた方の多くが頷いてくれるだろうと思います。

例えば先程のような「UNIXLinux の違い」を説明する際に、単に UNIXLinux の元になったものであるというようなところから一歩踏み込んで、UNIX 的な思想について進んで説明したくなるのではないでしょうか。

こちらの投稿を読んでくださり、本書に興味をもたれてお読みになった方と、この読後感を共有できたなら幸いです。